世界三大珍味のひとつ「トリュフ」。黒い塊が黒トリュフで、その希少性から「黒いダイヤモンド」とも称されます。その中でもさらに珍しい白トリュフ(写真上の白いもの)は「白いダイヤモンド」と呼ばれるほどです。
皆さんはキノコに大金を払ったことがあるでしょうか?
フランス料理などで知られるトリュフは、キャビア・フォアグラと並ぶ世界三大珍味の一つに数えられる高級食材です。
その価格は驚くほどで、最高品質のものは100グラムで十万円を超えることもあります。
なぜ地味な見た目のキノコにそれほどの値が付くのか、不思議に思いますよね。
実はトリュフには希少性、採取の困難さ、人工栽培の難しさ、そして何より芳醇な香りと美食家たちを魅了する物語が詰まっているのです。
今回は、科学的・文化的な観点も交えながら、トリュフが高価な理由を分かりやすく解説します。
地中に眠る宝:トリュフ採取が難しいワケ
トリュフは他のキノコと違い、地中に隠れて育つ不思議なキノコです。森の中のナラやクリなど特定の樹木の根に共生し、その周囲の地下深く(白トリュフでは30cm~1mにも達する深さ)に塊状の実体を作ります。
地表からは姿が見えないため、人間の目で探すことはほぼ不可能です。
そこで活躍するのが動物たちの嗅覚です。
昔ながらの方法では雌ブタが使われてきましたが、ブタはトリュフを見つけると自分で食べてしまうこともあるため、近年では訓練された犬が主流です。
犬やブタの優れた鼻にトリュフの匂いを嗅ぎつけてもらい、「ここ掘れ!」と地中から掘り当てるわけです。
トリュフ探しはまさに宝探しさながらで、見つけた瞬間には歓声が上がるとか…!
しかし、どんな森でもトリュフが見つかるわけではありません。トリュフは特定の樹木と共生するため、発生する場所が限られています。
ヨーロッパの限られた地域(例えば黒トリュフならフランス南西部やイタリア中部、白トリュフならイタリア北部など)や気象条件の整った森でなければ、トリュフは姿を現しません。
その上、収穫時期も限られるのです。主に11月~3月頃にしか採れず、季節外には手に入りにくいのも希少な点です。年間を通して大量生産できる作物とは違い、「旬」の短さもトリュフを貴重な存在にしています。
さらにトリュフは鮮度との勝負。掘り出した瞬間から香りは刻一刻と弱まっていきます。
一般には収穫後7~10日ほどしか持たないと言われます。
長期保存がきかず、遠方への輸送や在庫も難しいため、必要なときに必要な分だけを高値で取引するしかありません。
これだけ条件が厳しければ、希少で高価になるのもうなずけますね。
森林の神秘:人工栽培が難しい理由と最新事情
トリュフが希少である大きな要因の一つに、人工栽培の困難さがあります。シイタケのように原木に菌を植え付けて量産…とはいかないのです。
トリュフは生きた木の根に共生しなければ成長できない菌であり、特にナラやカシ、クリなど限られた樹種の若い根との共生が必要です。
トリュフが育つ環境は気まぐれで、例えば黒トリュフの場合「冬は暖かく霜が降りず、夏は適度に暑く、さらに冬場は乾燥している」といった非常に厳しい気象条件を満たす必要があります。
そのため、トリュフだけを培養することは非常に難しく、木を育てるところから環境を整えねばなりません。
結局のところ市場には今でも天然の野生トリュフに頼らざるを得ず、それが希少価値と価格を押し上げているのです。
とはいえ、「トリュフを栽培できれば一攫千金」と夢見る生産者たちの挑戦は各地で続いています。
最近では研究開発も進みつつあります。なんと2022年、日本で白トリュフを人工的に発生させることに成功したとの報告があり、続く2023年には黒トリュフの人工発生にも国内で初めて成功しました。
まだ安定栽培への条件解明はこれからですが、将来的には白も黒も計画的に生産できる日が来るかもしれません。
ただし現時点では依然として「天然もの頼み」であることに変わりはなく、特に白トリュフは有効な栽培法が未解明のため森で探し当てるしかないのです。
鼻を惑わす芳香:トリュフの香りの科学
トリュフの価値を語る上で外せないのが、その強烈で魅惑的な香りです。
では、あの独特の香りの正体は何なのでしょう?
科学的に見ると、トリュフの香りは実に複雑な化合物のブレンドです。
揮発性の硫黄化合物やアルコール、エステル、ケトン類など数十種類にも及ぶ成分が混ざり合って、あの奥深い香りを生み出しています。
例えば黒トリュフの場合、ジメチルスルファイドという硫黄化合物が主要な香り成分の一つ。
玉ねぎや茹でたキャベツを思わせるような強い硫黄臭で、黒トリュフの約85%に含まれています。
この刺激的なベジタブル系の匂いこそ、犬やブタが土中のトリュフを探り当てる手がかりになっているのです。
しかし不思議なことに、この強い香り成分も含め、トリュフ全体の芳香は非常に儚く繊細。
瓶に詰めて保存しようにもすぐ飛んでしまうため、市販の「トリュフオイル」などは実は本物のトリュフを使わず、ジメチルスルファイドと2-メチルブタナール(濡れた犬のような臭気の成分)を合成して似せているに過ぎないのです。
生のトリュフの香りがいかに特別かが分かりますね。
さらに興味深いことに、トリュフの香りには生物学的な秘密も隠されています。
トリュフにはごく微量ながらアンドロステノンという化合物が含まれているのですが、これはオスのイノシシ(雄ブタ)が発する性フェロモンと同じ物質なのです。
メスのブタがトリュフに飛びつく理由は、このイノシシの恋の香りに惹かれるからとも考えられています。
まさに自然が生んだ妙策ですよね。では人間にとってこの匂いはどうでしょう?
実はアンドロステノンの感じ方は人それぞれで、遺伝的な嗅覚受容体の差によって全く嗅ぎ取れない人、汗や尿のようだと不快に感じる人、甘い花のようだと良い香りに感じる人に分かれることがわかっています。
研究によれば、人類の約25%はトリュフ中のこの匂い成分をまるで感じ取れない体質で、一方で35%ほどの人は強く惹きつけられる芳香だと答え、残りの40%近くは「むしろ臭くてダメ…」という反応になるそう。
トリュフが大好きな人と苦手な人が極端に分かれるのは、こんな嗅覚の個人差も関係しているのです。