乾燥した砂漠で、ラクダがトゲトゲのサボテンをモグモグと美味しそうに食べている――そんな光景を見たことがありますか?
見ただけで痛そうなトゲだらけの植物を、ラクダはなぜ平気で食べられるのか、不思議に思いますよね。
人間なら指先で触れるだけでも「イテッ!」となりそうなのに、ラクダはまるでスナック菓子でも食べているかのようにムシャムシャしています。
その秘密は、ラクダの口の中に隠された驚くべき適応能力にあります。
ここからは、ラクダがトゲのある植物すらも食べられる理由を、歯や舌、粘膜、唾液といった口内構造や生理的適応の観点から探っていきます
ラクダの口の中を覗いてみよう
ラクダの口にはピンク色のぶつぶつした小さな突起がびっしりと並んでいます。
この突起は「乳頭状突起(にゅうとうじょうとっき)」と呼ばれるもので、ラクダの頬の内側や舌にまでぎっしり生えています。
一見柔らかそうに見えますが、その表面はケラチン質(爪や髪の毛と同じ硬いたんぱく質)で覆われており、触るとまるでプラスチックのブラシのように硬いのです。
この乳頭状突起が口内をトゲから守る秘密兵器です。
すべて奥(喉の方向)に向かって並んでいるため、食べ物を飲み込む際にトゲが突き刺さらないようガイドの役割を果たし、安全に喉へ送り込むことができます。
さらに驚くべきことに、この乳頭状突起のおかげで見た目のインパクトも相当です。
内側から見るラクダの口は、小さなトゲトゲ(乳頭)が林立していて、まるでエイリアンの口内のようだとよく形容されます。
普段ニコニコとした表情のラクダですが、口の中はそんなゴツゴツ仕様なんですね。
トゲ付き植物をも器用につかむ厚い唇
ラクダが棘だらけのアカシアやサボテンを食べられるのは、口の中だけでなく唇からして違います。
ラクダの唇はとても分厚くて筋肉質なうえに器用です。まるで指のように自由に動かせます。
上唇は真ん中で二つに割れており、それぞれを独立に動かせるので、トゲの多い植物でも上手に隙間を狙ってつまみ取ることができるのです。
柔軟で厚い唇がクッションとなり、まずはトゲを唇で受けないように巧みに避けながらサボテンにかじりつきます。
実際、野生のラクダが棘のある低木に頭を突っ込んでムシャムシャやっている姿を観察すると、その唇の器用さに驚かされます。
人間が真似しようものなら顔中が傷だらけになりそうですが、ラクダは硬い棘を巧みに避けつつ植物を引っ張って千切り取ります。
頑丈な歯と豪快な咀嚼
唇で捕まえたトゲ付きの枝葉は、その後頑丈な歯によって粉砕されます。
ラクダの口を開けると見える大きな歯は、実は34本もあります。
注目すべきは奥歯の臼歯です。
平たく大きな臼歯は強靭な顎の力と相まって、乾燥して硬い木の枝や棘だらけの茂みですらバリバリと噛み砕く破砕機となります。
ラクダがもぐもぐ…ゴリゴリ…と大きく円を描くように顎を動かして咀嚼する様子は、一見のんびりしているようでいて、その歯は棘ごと植物を粉砕する大仕事をこなしているのです
ラクダの上あごには硬い口蓋があり、下の歯で噛み付いた植物をこの硬い上あごに押し付けるようにすり潰します。
いわば臼と杵の要領で、トゲもろとも食べ物をすり砕くわけですね。
さらにラクダは食べ物を噛み砕く際、上下の奥歯で左右に擦り合わせる独特の回転噛みをします。
この回転式の咀嚼によってサボテンの棘への圧力が分散され、口内の先ほどの乳頭状突起が棘を縦向きに整列させながら喉へ送り込むため、鋭い先端が刺さりにくくなるのです。
平たく言えば、「噛み方」にも工夫があって、ただ真っ直ぐ噛み潰すのではなくグルグル歯でこね回すことでトゲによる一点集中のダメージを避けているんですね。
粘々唾液は天然のクッション
ラクダが棘をものともしない秘密兵器はまだあります。
それは大量に分泌される粘り気のある唾液です。
ラクダは食事中にドバーッと唾液を出しますが、この唾液が非常にねっとりと濃厚なのが特徴です。
まるで潤滑油のように粘度が高いため、トゲ付きの植物も唾液でコーティングされ、喉や食道への引っかかりが格段に減ります。
唾液は食べ物の飲み込みを滑らかにする潤滑剤の役割を果たし、棘が直接粘膜に刺さらないように守ってくれるのです。
さらに唾液には消化酵素も含まれており、一度目の咀嚼の段階から植物の繊維質や棘の一部を化学的に柔らかくする効果もあります。
実際、ラクダはよだれをたらしながら食事をする光景がよく見られますが、あれはだらしないわけではなく、体が「このご飯は硬いぞ、唾液たっぷり出して助けないと!」と反応している証拠なのです。
粘っこい唾液による潤滑&予備消化のおかげで、棘のある植物でもスルリと喉を通り、内臓へのダメージも抑えているわけですね。
痛みに鈍感?ラクダの痛覚と我慢強さ
ここまで聞くと、「ラクダってそもそも鈍いのでは?」と思うかもしれません。
確かに焼けつくような熱砂の上を平気で歩き、トゲだらけの植物をモシャモシャ食べるラクダは、「タフな動物」という印象があります。
実際、私たちなら尻込みするような環境でも、ラクダは涼しい顔で日常を送っています。
しかし専門家によると、ラクダが棘をものともせずサボテンを食べられるのは、耐えているからではないそうです。
痛みの感じ方そのものが違うか、もしくは痛みを感じにくい体の構造になっているというのです。
まず、先ほど述べたようにラクダの口内構造自体が物理的な刺激から守られています。
ケラチン質の突起や厚い粘膜によって棘が深く刺さらないため、痛覚神経に届く刺激が非常に少なくなっています。
いわば棘のダメージを物理的にブロックしているので、「痛みを感じない」というより「痛みが発生しにくい」状態なのです。
また、ラクダの神経系は痛み刺激に対して反応が鈍やかとも言われます。
強い刺激が加わっても即座にパニックにならず、平然と行動を続けられるのは、過酷な環境で生き抜くため「多少の痛みは日常茶飯事」という進化の結果かもしれません。
とはいえ、ラクダがまったく痛みを感じないわけではありません。
実際、サボテンを食べたラクダの口の中を調べると、小さな棘が刺さっていた例も報告されていますし、それが原因で口の周りが腫れることもあるそうです。
ナショナルジオグラフィックの取材でも、飼育下のラクダがウチワサボテンを食べる様子を紹介しつつ、「人間があんなもの食べたら大変なことになるけど、ラクダだって決して無傷なわけじゃない。
でも当のラクダたちはトゲよりサボテンの中身がお気に入りで、多少チクチクしても平気で食べ続けるんだ」と述べられています。
ラクダ本人にしてみれば、「ちょっと痛いけど美味しいからやめられない!」ということなのかもしれませんね。