
マグロの尾びれ手前に、豆粒みたいなトゲトゲが列になっているのを見たことはありますか。
あれが小離鰭(しょうりき)です。
名前は地味ですが、役割は全然地味じゃありません。
小離鰭は水の流れを整え、尾びれの一蹴りをより効率よく推進力に変えるための「流体パーツ」です。
今回は、小離鰭の場所と形、どんな仕組みで速さと安定性を生み出しているのかを、専門用語に解説を添えてわかりやすく紹介します。
小離鰭とは?どこにある何ものか
小離鰭は、第二背びれと尾びれのあいだ、そして肛門側の第二腹びれと尾びれのあいだに、チョコチョコっと並ぶ小さなヒレの列です。
マグロ、カツオ、サバなどの回遊魚に共通する装備です。
個々のヒレは薄い板のような形で、泳ぐときに勝手にピコピコ動く飾りではありません。
基部に小さな筋肉があり、わずかに角度を「立てる・寝かせる」調整ができる種もいます。
「小離鰭は飾りではなく機能部品」である、ここがまず大事なポイントです。
何のためにある?三つのメイン効果
「抵抗を減らす整流板の役割」が第一です。
体の表面には境界層という薄い水の層がまとわりつき、速く泳ぐほど乱れて抵抗になります。
小離鰭はこの境界層に微細な渦を意図的につくり、流れを剥がれにくくして「水のすべり」を良くします。
その結果、尾びれの付け根までスムーズに水が運ばれます。
第二は「尾びれの蹴りをブーストする渦の配達」です。
尾びれは左右に振り、翼が前へ進む力に変えるのと同じ原理で推進します。
小離鰭がつくる細かい渦は、尾びれが力を発揮する角度へ向けて水流を整え、翼としての効率を高めます。
同じ力で振っても進みが一歩分伸びる、その積み重ねが巡航速度や加速を底上げします。
第三は「進路がぶれにくいヨー安定とローリング抑制」です。
尾びれの付け根には左右の力が交互にかかり、機体でいえば振れやすいポイントです。
小離鰭はそこで生じる大きな渦を細かく分割し、左右のバランスをととのえます。
結果として直進性が上がり、舵を切るときもスッと向きが決まります
どうやって効いている?仕組みをもう一歩だけ
小離鰭は一枚一枚がとても薄く、角度もごく微妙です。
この「微妙さ」がカギです。
列になった板が連続して水を切ると、ヒレの後ろに小さな渦の階段ができます。
階段状の渦は、尾びれの表と裏にできる圧力差を崩さない向きに流れを並べ替えます。
言い換えると、「悪い渦」を「良い渦」に作り変える超ローテクの流体制御です。
角度をほんの少し立てれば効果を強め、寝かせれば抵抗を減らすという微調整も合理的です。
マグロが遠くまで速く泳げる理由の一角
マグロの速さは小離鰭だけの功績ではありません。
流線型の体、硬くて細い尾柄、三日月の尾びれ、体温を高く保つ仕組みなど、多要素の総合点です。
その中で小離鰭は、最後のひと伸びを生む「仕上げ担当」です。
長距離移動の巡航でも短距離のダッシュでも、ロスを減らして燃費を良くするパーツだと考えるとイメージしやすいはずです。
観察ポイント:どこを見ると面白い?
魚売り場や解体ショーで尾の手前をよく見ると、小離鰭の枚数、角度、大きさの変化に気づきます。
キハダやメバチでは背側と腹側に数枚から十枚弱が並び、尾に近づくほど少しずつ小さくなるグラデーション設計が一般的です。
泳ぎが速いほど、このグラデーションが滑らかで、列の密度も高い傾向があります。
水族館で回遊水槽のマグロやカツオを横から眺めると、尾びれを振るたびに小離鰭の周りの水が「スッ」と尾へ吸い込まれるのがわかります。
観察のコツは「尾の手前の小さな列に目を凝らす」です。
小離鰭があるのはサバ科の魚だけ
サメにも小離鰭はあるのか、と聞かれることがあります。
答えは「ありません」。
あの列はマグロやカツオ、サンマ、アジなどのサバ科の仲間に特徴的な装備です。
サメはまた別の流体設計で速さを出しています。
小離鰭を切り落としても泳げるのか?
生き物は冗長性を持ちますが、小離鰭は尾びれの効率を底上げする部品です。
失うと直進性と燃費が落ち、長距離回遊で不利になるはずです。
まとめ
小離鰭は飾りではなく、マグロの速さと安定性を底上げするための「知恵の板」です。
体表の流れを整え、尾びれへ「良い水」を送り込み、直進や進路変更のブレを抑えます。
マグロが海を長距離かつ高速で走れるのは、体の形、尾びれ、筋肉、体温調節といった主要装備に、この小さなパーツ群が噛み合っているからです。
次にマグロを見る機会があったら、尾の手前の小さな列に注目してみてください。
「小離鰭は飾りじゃない」という事実が、ぐっと実感できるはずです。