
夜の川べりでコウモリが水面すれすれに飛ぶのを見て、「この小さな体で、どうして大きな病気のニュースにたびたび登場するんだろう?」と不思議に思ったことがあります。
これは、コウモリはたくさんのウイルスを保有できるのにコウモリ自身は影響を受けにくいという、特徴を持っているからです。
※画像はフィリピンオオコウモリ
コウモリが持つウイルスについて
まず前提をまっすぐに。世界に1400種以上いるコウモリの“ごく一部”が、ヒトにとって重い感染症のウイルスと関わるケースがあります。
重い、というのは致死率が高い・重い合併症を起こしやすい・広く流行し得るといった意味です。
たとえば、名前を聞いたことがあるものだけ挙げても、エボラやマールブルグ(フィロウイルス)、SARS・MERS・SARS-CoV-2(新型コロナの原因)とつながるコロナウイルス群、それからニパ・ヘンドラ(パラミクソウイルス)、狂犬病などがあげられます。
多くの場合、ヒトに届く前に中間宿主(たとえばブタ、ウマ、ハクビシン、ヒトコブラクダなど)を経由していることがほとんどです。
なぜコウモリはウイルスをもつのか
理由はシンプルなコウモリの生態に由来します。
飛ぶ、群れる、長生きだからです。
まず飛ぶことについて。
羽ばたき飛行は哺乳類でいちばん燃費の悪い運動で、飛んでいる間は体温も代謝も一気に上がる。
この毎晩のきつい運動に耐えるため、コウモリの体は体温を上げすぎない方向へ進化してきました。
するとどうなるか。ウイルスと出会っても自分が壊れにくい=長く抱えやすい体質に寄るわけです。
次に群れることについて。
洞窟や橋の裏側、果樹園の木陰――密集と長距離移動は、同じ種の間でウイルスを回しやすい環境をつくります。
最後に長生きなことについて。
小型のわりに十年以上生きる種も珍しくありません。長生きすれば、そのぶん**ウイルスと付き合う“時間”**が増える。
この三つが重なると、“重症化しにくい体”ד循環しやすい生活”という、ウイルスにとっては居心地のいい条件が整います。
では、そんな体は具体的にどうやって被害を最小にしているのか。ここからが本題です。
コウモリはどのようにウイルスを対策しているのか
- 炎症のブレーキを強めて“自傷”を防ぐ
飛行は体内に活性酸素(細胞を傷める“サビ”)を増やします。毎晩これで炎症が暴走すると体が持ちません。そこでインフラマソーム(=炎症スイッチ)の反応を弱め、炎症で自分を壊さない体にしています。その副作用として、ウイルスを体内に保持しやすくなる余地も生まれてしまっています。 - 体温リズムそのものを味方にする
コウモリが飛んでいる最中は体温が一時的に上がり、ウイルスが増えにくい環境になります。さらにトーバー(=浅い休眠で代謝と体温を下げる状態)を使い分け、季節・時間帯で体内環境を一定にしないことでウイルスの増殖を抑制しています。勘違いしないでほしいのが、これですべてのウイルスが消えるというわけでないということです。あくまで増やさないだけです。